「憎まれ役」

自民党幹事長、野中広務氏(82歳)とプロ野球監督、野村克也氏(72歳)の「対談」というより「対論」集だ。帯に「はい上がった男の格差社会憂国論」とある。
政界と球界、場こそ違うがともに百戦錬磨、知謀策略を尽くして宿敵と渡り合ってきたご仁だ。あえて両者を「憎まれ役」の一語でくくった編集者のセンスが光る。
ともに鋭い分析力と豊かな表現力には定評がある。その2人が歯に衣(きぬ)着せず発する「憎まれ口」だ。面白くないはずがない。両氏の顔と口調を思い浮かべながら、一気に読み通した。
「憎まれ役」の矛先は「好かれ役」に向かう。野中氏の場合は小泉純一郎氏。「小泉さんは自民党ではなく、日本をブッ壊した」「政治家はマスコミではなく、歴史に判断されるべき」「自民党と巨人軍はパフォーマンス重視で凋落した」
野村氏の敵役は長嶋茂雄氏だ。「パフォーマンス男はリーダーに向かない」「長嶋監督以降、巨人軍は球界の紳士でなくなった」「リーダーの器以上に組織は育たない」
話題は政治、野球から格差社会まで。言いたい放題の観、なきにしもあらず。それでも単なる毒舌悪口に終わっていないのは、それぞれが歩んできた道への強い自負や愛着、期待と幅広い社会的関心があるからだろう。
「心の底から本音で問題点を語る男はほとんどいません。保身と現世利益に目が眩んで、口に糊している人間がなんと多いことでしょうか」との野中氏の剛速球が胸元を突く。
京都府出身、B型、短気、たばこ酒ダメ、甘党−との共通点も面白い。文藝春秋刊。1143円。