カンジ悪い漢字

今年の世相を表す漢字に「偽」が選ばれた。清水の舞台で恒例の大筆をふるった森清範貫主は「こういう字が選ばれるのは日本人として誠に恥ずかしく、悲憤にたえない」と慨嘆した。
1年を象徴する漢字だ。もっと明るく、よい字はなかったか。そうは思うが、2位は「食」、3位「嘘」、4位「疑」と続いたそうだ。食品の産地偽装、賞味期限の改ざん、人材派遣の偽装請負、国会での偽証疑惑、公務員の有休虚偽取得…残念ながら、そんな年だったのだ。
モーセ十戒でも仏教の五戒でも「偽証」「妄語(うそ)」は、殺人や盗みなどと並ぶ罪に挙げられる。ローマの「真実の口」では偽りのある者が手を入れると手首が切り落とされる、あるいは手が抜けなくなる。日本ではうそをつくとえんま大王に舌を抜かれる…。
古今東西、それだけ戒められても「うそ」「偽り」は後を絶たないということになる。わが国最初の「和同開珎」が鋳造された翌年、もう偽金作りの取締令が出ているそうだ。
「偽」は「人」べんに「為」と書く。だから、人の行為には偽りが多いのだという説がある。しかし、白川静『常用字解』によれば、これは誤った解釈で、もとは変化して他のものになるという意味だったらしい。
藤堂明保ほか『漢字源』の「偽」の項には「為は人間が手で象をあしらって手なずけるさまを示す。作為を加えて本来の性質や姿をためなおす」ともある。
文字に善しあしの責任はない。問題は、その行為の「中身」なのだ。