「となりのクレーマー」

その1。百貨店のブランドショップ。革かばんの内側が色落ちして、書類が汚れて困る。「よくあるんですよね、色移り」との女性店員の応対にキレた。「物入れへんかばんて、あるのか!」。大声を出したら、上司らしき男性がすっ飛んできて、立派な別室に招き入れられた。
その2。電器量販店。電子手帳の電池交換を頼んだら「データ入ってますか。消えても知りませんよ」。何という言い草だ。ここでも「データ入れるのが手帳やないか!」と喝ッ。にぎやかな店内が凍りついた。店員はあわてて電池を取りに走った。
どちらも、血気盛んなころのわが体験。スキー宿予約の重複受理による行き先変更を電話一本で告げられ、怒鳴ったら旅行社の責任者が自宅まで謝りに来たこともある。
本書では「イチャモンをつける人、理不尽な要求をする人、無理難題を言って楽しむ人」を「クレーマー」と呼ぶ。これに照らせば、正当なるわが身などただの「うるさい客」に過ぎない。
著者の関根眞一氏は、百貨店の元「お客様相談室長」。2年前に買った毛皮の虫食い、10年前のブラウスにできた穴、抗議に来た高速道路代の請求…。やくざに呼び出されたり、何時間も「軟禁」されての罵倒など、いやはや大変な事例がつづられている。
関根氏いわく。お客様の申し出は感情を抑え、素直に聞く▽非があれば真しに謝る▽正確にメモを取る▽現場を確認する▽対応は迅速に▽不当な金品要求には断固応じない−。
権利意識の強い時代だ。クレーマーはどこにでもいるし、だれもがなり得る。とは言え、当方など「クレーマー」にはなっても「相談室長」には到底なれそうにない。中公新書ラクレ。720円。