二度づけ禁止

大阪・新世界「じゃんじゃん横丁」の名物は、串かつ屋だ。500mほどの細い通りの両側に「日本一」「天下一」といったド派手な看板やのれんが並び、揚げ油やソースのにおいが漂っている。

ここでは「二度づけ禁止」が共通のルールだ。一度かじった串かつをソースにつけ直してはいけない。ソースは大きな容器に入れ、適当にカウンターの上に置かれている=写真=。
客は出された串かつを手近なソース容器につけて食べる。この時、串をどっぷりつけておかないと、ついつい「二度づけ」したくなる。見つかろうものなら、たちまち店の奥から大きな声が飛んでくる。「二度づけアカン、て書いてあるやろ!」。

ソース容器は共用のもの。一度口に入れた食べさしの串をあちこちから入れられてはかなわない。もっともなことだ。何かにつけて束縛を嫌う大阪人も、このルールにだけは従順らしい。

でも、ふと思う。ソースが貴重だったころならいざ知らず、各自の席にソース入れを置いて自由にかけるようにすれば「二度づけ」をうんぬんせずに済むではないか。それをわざわざ共用にしているところがミソ。「二度づけ禁止」は、いまや観光客も知る「ブランド」になっているのだ。店内の張り紙どころか、最近は表の看板やのれんに大書してアピールしている店も多い=写真=。
そのうちの1軒でのこと。客が席を立つのを待って、従業員がソースの容器を厨房にひきあげ、残ったソースを細かい目の金ざるに通してろ過、涼しい顔でまたカウンターへ。先客のかつのころももきれいにこされ、見た目には新しいソースによみがえった。「二度づけ」ならぬ「二度使い」!

売り物の白濁の湯が枯れ、粉末の薬剤を加えて演出していた温泉を何やら思い出した。「ブランド」を守るのも、なかなか大変だ。