大文字送り火

けさの高校野球中継で民放アナが「きょうは京都で大文字焼き」と言っているのを聞いて、噴き出した。おいおい、大文字は山焼きじゃないよ。お盆の間、家に帰っていた「おしょらいさん(精霊)」を再び浄土へ送る宗教行事だ。プロの話し手なら「送り火」ぐらい知っておいてもらいたい。
午後8時前、自宅から歩いて300mほど離れた鴨川の北山橋までに出た。すでに鴨川堤は、浴衣姿の若者や家族連れでいっぱい。ここからは「大」と「船」がきれいに見える。
「大文字を 待ちつつ歩く 加茂堤」(高浜虚子
8時きっかりに東山の「大」に火がついた。煙が炎になり、文字の輪郭が次第に赤く、太くなってくる。少しでもよく見える位置を求めて、人波とともにゾロゾロとあちこちへ移動する。俗に弘法大師が書いたとされる「大」は悠然として、五山の中でいちばん見栄えがよい。当日のコンディションによって飛び火で「大」が「犬」や「太」になる年もあるが、ことしはきれいな「大」だった。

「大」の字には「あまねく」や「優れている」という意味があり、人々を極楽に導く大師の思いがこめられているとされる。合掌する人もいれば、携帯カメラの撮影に余念のない人、花火気分で飲み物片手に鑑賞する人もいる。杯に「大」の字を映して飲むと中風にならないともいわれるが、よほど近くへ行かないとそれは不可能だ。
「大」の火勢が衰えてきたころ、北山に「妙法」が浮かぶ。こちらは少し角度が悪い。次いで「船」「左大文字」「鳥居」とリレー式に点火されていく。樹木の陰、ビルの壁に阻まれながらも、結局「鳥居」を除く4つを目にすることができた。近ごろは、五山すべてを観光バスで見て回ろうという欲張りツアーもあるそうで、周辺道路は大混雑だ。
火が消えて、家路につくころは汗ぐっしょり。あー、疲れた。京都の夏はこれでおしまい。そう言えば、あしたから出勤だぁ。
【写真は、加茂街道北大路橋上ルから】