消し炭つるし

大文字送り火の翌日、勤め先のOBが毎年必ず届けてくれるものがある。前夜「大」の字を形どって燃えきった松割り木の消し炭だ。けさも早くから大文字山に登り、ごっそりポリ袋に入れてもらってきたらしい。小袋に入れたひとかたまりをわざわざ職場まで持ってきてくれた。
かつては、この消し炭を砕いて粉末にし、飲んで服用すると病封じになるとされたそうだ。いまも消し炭を半紙に包んで、家の玄関口につるすと厄よけ、泥棒よけになると信じられ、この先輩もそうするように毎年届けてくれるのだ。
炭には本来、ものを清浄にする力があり、そこからこうした俗信が生まれたのだろう。先祖の精霊を送り、無病息災の願いを込めて燃やされてできた炭なのだから、その霊力はことさら強いはずだ。
気のよい先輩は、いくつも袋を提げ、社内に配り歩いていた。せっかくながら無宗教の当方、これまでもらっても持ち帰ったことがない。かと言って粗末に扱うわけにはいかないので「だれか、いらんか」。声を上げたら、そばの若い部員が「ぼく、もらいます」。気を使ってくれたのかどうか。「でも、うちに半紙、ないんですよね。新聞紙ではダメですか」。あかん!