つじい「おでん」

日が落ちてひんやりする季節になると恋しくなるのが、フーフー湯気の温かみ。夏場は足が遠のきがちだったなじみの縄のれんをくぐった。
「つじい」(京都市北区)のおでんは、昭和4年以来、煮汁を継ぎ足し、継ぎ足して77年。4代にわたって守り育ててきた味だ。
関西で「おでん」のことを「関東煮(かんとうだき)」と呼んだのは昔のこと。いまは「おでん」のほうが通りがよい。
ひとくちに「おでん」といっても、割ぽうと居酒屋では違いがある。割ぽう系は京料理と同じくだしをきかした薄口、居酒屋系は見た目も濃厚、こってりとした煮汁が特徴だ。「おふくろの味」をうたう「つじい」は後者の代表選手。じっくり時間をかけて煮られた大根は茶色に近く、ジャガイモもしんまで煮汁がしみ込んで、いまにも崩れそう。たきしめられたうす揚げは、かむと甘めのうま味がジューンと口いっぱいに広がる。
ごぼ天、豆腐、こんにゃく、厚揚げ、シューマイ、ほうれんそう、ロールキャベツ…全部おススメ。なかでも、ゆばはここならではの逸品。煮汁にひたされてトローリとなったところを刻みネギとからしでいただく。ゆばのたんぱく質が濃厚なだしとからんで最高だ。
ばあちゃん、ママ、若大将の親子3代で切り盛りする店内は気安く、初めての人でもすぐ溶け込める。きずし(しめさば)、おから、焼き魚などの一品もある。
食べて飲んで、3000円もあれば十分だ。
 
★★★★★(これぞ、おでん京都一)
【写真左=おでん盛り合わせ、右=ゆば】