えんま様なら

奈良時代の初め。長谷寺の開祖・徳道上人が亡くなり、あの世でえんま大王にこう言われたそうだ。「生前の悪事で地獄へ落とさねばならぬ者が多すぎて困る。三十三の観音を一巡した者は必ず極楽へ行かせるから、人々にそう教えよ」
大王から三十三所の宝印を授かった上人は息を吹き返し、大王の言葉を説いて回ったという。これが「西国三十三所巡り」の起こりとされる。奈良の昔から、えんま様を嘆かせるほど悪人の数は多かったのだ。
先月、未執行の死刑確定囚がとうとう100人に達した。年末時点で死刑囚が3けたに上った例は戦後ない。3日前にも福岡地裁で2人が死刑を言い渡された。昨年の死刑判決は、80年以降最多の44人。今年はまだ2カ月というのに、はや13人が死刑判決を受けている。
厳罰化の背景に、犯罪の凶悪・凶暴化が挙げられる。身勝手な動機、残忍な手口…被害者や遺族の無念を思えば、極刑以外に選択しようのない事件があまりにも多い。
死刑執行は、1957年の39人を最多に、この30年間ひとけたが続いている。執行命令書に署名したがらない法相もいて、判決の増加に執行が追いつかないのが実情らしい。
死刑廃止論の理屈は分かる。執行をためらう法相の気持ちも理解できる。しかし、このまま未執行の確定囚が増え続けるのもどうかと思う。かのえんま様ならどう裁くだろう。