室町砂場「天ざる/もり」

「天ざる」「天もり」発祥の店として、つとに名高い。創業は1869(明治2)年。冷たいそば+天ぷら−いま考えると何でもない組み合わせのようだが、人気の高い天ぷらそばの売れ行きが落ちる「夏場対策」に先々代が考案したというアイデアメニューなのだ。
品書きを見ると「天ざる」1550円、「天もり」1450円とある。「ざる」と「もり」はどう違うの? 注文を聞きに来た従業員の女性に尋ねた。
「ざるは、そばの実のしんの部分だけを使った1番粉。もりは、周辺部分の2番粉を使ったものです」。なるほど。「ざる」は650円、「もり」は550円。天ぷら抜きでも100円の差がついている。
ここも、そばの量が少ないことでは有名な店だ。「ざる」と「もり」の違いも見たいので「天ざる」(写真1)と「もり」(写真2)の両方を頼んだ。
最初に出てきたのは「天ざる」。つなぎに卵を使い、わずかに黄味がかったそばはつややかで美しい。天ぷらは最初から、熱いそばつゆの中に入れて出すのがここの流儀だ。芝エビと貝柱のかき揚げで、衣が江戸前の濃いつゆをたっぷり吸い込んでとろけている。冷たいそばと熱いつゆが口の中で一体となり、格別の味わいだ。
「もり」は黒めでそば粉の風味が身上。つゆが付いていないので尋ねたら「天ざる」の残りづゆで食べて、という。すでにつゆは少なく、これは興ざめだった。東京都中央区日本橋室町。

★★★★(うまい、少ない、高い)