そば茶寮 澤正「とろろそば」

東山・泉涌寺の山すそ、静かな住宅地の一角。和洋折衷のしょうしゃな玄関が目を引く。薄紫の鮮やかなのれんが掛かっていなければ、ここがそば屋とはまず気づかない(写真1)。
オープンは2002(平成14)年。近くに店を構えるそば菓子の老舗「澤正(さわしょう)」3代目が、創作そば料理の店として始めた。建物は昭和の初め、伊勢神宮式年遷宮で出た古材を使って、3年がかりで建てられた館を改装したものだという。
この日は単品メニューから「とろろそば」を選んだ(写真2)。北海道産、石うすびきの粉を使った手打ちそばに、山芋のとろろがかかる。ごわごわと強い歯ごたえのあるそばで、つゆはストレートな辛口。繊細なそばが多い京都では、やや「武骨」な印象を受ける。
器が凝っている。そばは青や緑のモミジを描いた華やかな浅鉢、つゆもしゃれた片口で出てきた。どの器も、近くの清水焼窯元で厳選したものだそうだ。大胆な色使い、斬新なデザインが多く、型にとらわれない店主の好みがうかがえる。
各種そば単品のほか、月替わりの創作そば会席もある。こちらも京料理をベースに、イタリアンやフレンチの要素を取り入れた和洋折衷らしい。
こだわりと押しつけがましさは紙一重。その微妙なバランスを保っているのが老舗のサービス精神だろう。創業98年、初代澤正は「そばぼうろ」の考案で有名。旺盛な創作意欲は血筋かもしれない。京都市東山区今熊野剣宮町。

★★★★(武骨なそばと斬新な器の妙)