「ウナギ」

ウナギは日本人の好物だ。なんと世界の7割をこの島国で消費しているそうだ。そう言えば、かつては土用丑(うし)など年に数えるほどしか食べなかったのに、いまでは食べたいと思えば、スーパーやコンビニで年中安いかば焼きやウナギ弁当を売っている。
「こんなに安く、たくさん出回っているのに、なんで?」。今夏、オランダでのワシントン条約締約国会議でヨーロッパウナギが絶滅の危機にあるとされ、国際取引の規制が承認された時、意外な気がした。しかも、その最大の原因が日本の大量消費だとは知らなかった。
井田徹治著『ウナギ』(岩波新書)は、そんな身近な割に知られていないウナギの世界に案内してくれる。筆者は共同通信科学部記者。なぞの多いウナギの生態から「空飛ぶウナギ」と呼ばれる地球規模のウナギビジネスの実態まで、興味深い話に引き込まれた。
ニホンウナギは、はるかグアム近海で産卵、黒潮に乗って日本まで回遊、国内の河川を上り成長した後、再び外洋へ戻っていくらしい。ウナギの一生には未解明の部分が多く、「完全養殖」の成功率は低い。その商業化への見通しはマグロ以上に遠いとされる。
自然環境の悪化で在来種が激減、完全養殖が困難となれば、出てくるのが外来種の稚魚(シラスウナギ)を輸入しての養殖だ。90年代に中国がヨーロッパウナギを輸入、低コスト・低賃金でたちまち台頭。養殖から商品加工まで行い、日本へごっそり輸出しているそうだ。
うまい、安いと安穏に喜んでいるだけでは、知らぬ間にウナギ絶滅の元凶になりかねない。われわれはいま、何をすべきか。グローバル化時代の食や地球環境を考えさせる好著だ。